村人たち
この村には一軒だけ「案内所」がある。看板はないけど、
おばちゃんがいつも、村の来訪者にあれこれ指南している。
この「案内所」前ではしょっちゅう、
犬連れ・猫連れの人々がにぎやかにたむろしてる。
あたしも、このおばちゃんをはじめ、
よく知らない人から話しかけられ、村のいろんな情報をもらう。
山向こうの温泉への行き方(片道4時間のルート)やら、
うまい日本酒が買える店やら、隣町のおいしいケーキ屋の情報やら。
こっちが聞いてもいないのに、向こうから話しかけてきて、
「ここ行ってみ」「あそこはええで」と教えてくれる。
東京では考えられない。でもおもしろい。
先日も病院の待合室で、70代の女性に話しかけられた。
「あんた、からだ柔らかいね」。
あたしはベンチに座ったまま、ストレッチをしていた。
長時間じっとしていられない。どうしてもマタサキがしたい。
話してみるとこの女性は、なかなかのスポーツウーマンで、
「あたしは年をとってから登山家になった」と、のたまう。
日頃からストレッチなどを欠かさず、長野アルプスへも遠征してるとか。
たちまち意気投合し、女性はあたしに近場の温泉情報やら、
「肺を潤す食べものはこれや!」などと、知恵を伝授してくれた。
ふんふん、いちじくがいいのね。いつも食べてるよ。
あたしはまたしても、女性が通う気功教室の開催日時まで
教えてもらい、「来てや~!」と念を押された。
女性の眼はいきいきとしていた。彼女のいのちは燃えてたぜ。
昨日は坂を登っていたら、アンディちゃん(犬)に出会った。
いつものように、あたしの股間のにおいをクンクンかぐ。
飼い主のアンさんは、大学で語学を教えている。
もう50年も日本で暮らしているとか。
立ち話したあと「A bientot! Au revoir」と別れる。
フランス語も通じる村人や。
先日やっと、お向かいのおばちゃんが退院してきた。
手術が無事に終わったみたい。
高齢だから心配してたけど…。よかった。
おじちゃんにからだを支えられ、ゆっくり家に入るおばちゃん。
そばのコンクリ塀の上では、茶色のデブ猫がぼってりと座って、
二人のようすをじっと見守ってた。