村人家の春
村人家にも春がやって来た。
ぷく江の夫である、村人ぴく蔵は、
相変わらず、村の池でロックやブルースを演奏していた。
観客のアメンボは、財布を持っていないので、
ぴく蔵の収入はほとんどない。
いくら、ぴく蔵が昼ごはんに
「ハエ」を捕って食べるといっても、
ぷく江が、童話を書いて得る収入だけでは、
家族3人の生活は苦しい。
昨年、村人家ではフランスから養女を迎えた。
マリー・フルール・熊江である。
この名前は、ぷく江がつけた。
マリーとは「聖母マリア」であり、
フルールとは「花」の意味である。
そこに、日本名の「熊江」という名前を加えた。
この「マリアの花・熊江」は良い子であったが、
どちらかといえば「人間嫌い」であった。
繊細な心を持っているので、
なかなか自分の心のうちを相手に明かさず、
人からはよく「何を考えているのかわからない」と思われていた。
しかし、熊江の可愛らしさをよく知っている
ぷく江は「花のように生きてほしい」と
いう願いをこめて、この名をつけたのだった。
そして、その背景には、
あるひとつの「物語」があった。
★つづく★